2018年に話題になった、ドーナツ経済学。
読み出すには少しハードルが高いですが、実際読み出すと、内容は順序立てて、章立ててかかれています。
洋書は(よくわからない)具体例や、書き方が日本の本と違うので、読みづらいものが多いですが、
この本はその中でも読みやすかったです。
内容は専門的ですが、難しい用語は出てこないので、ある程度読みやすいです。
▶︎本書を読んでみたいが分厚くてトライできていない人
▶︎本書を読んだか内容が入ってこなかった人
書籍紹介
タイトル ドーナツ経済学が世界を救う
著者 ケイト・ラワース(黒輪篤嗣 訳)
出版年 2018年2月
出版社 河出書房新社
価格 2,400円(税抜)

読みやすさ ★★★☆☆(内容は重いので読みづらいです)
実 用 度 ★☆☆☆☆(内容は専門的なので日常生活に活かせるものではないです)
本 棚 度 ★★☆☆☆(考え方を吸収できれば良いかと思います)
読書時間 約5.0時間
これからの経済学には何が求められるかを、極めて広い視野に立って描き出したの本書である
p.345 訳者あとがき より
【全体】読んでみての感想
日本のGDP成長率は、他のG7主要国と比べて低いことは多くの場面で言われています。
2020年は各国ともにマイナスですが、それまでも日本は0〜1%の成長にとどまっています。

GDPという切り口で見ると日本経済は死に体と言えます。
本書は今までこのように”GDP”という切り口、”成長”というキーワードでみられていた経済を、
新たな視点で見ていく必要がある、と述べています。
日本が厳しい状況にあることはかわりませんが、今後は成長だけではなく、持続可能性や再分配について議論し、経済を多角的な目線で見ていくべき、と言います。
本書を読んで、「成長=善」という一辺倒な考え方から、違った目線で経済を見てみるのも面白いと思いました。
【詳細】本書の内容、および感想
本書は、7章で構成されており、それぞれの章で今までになかった新しい経済を見る視点が述べられています。
各章から気になったところを書いていきます。より深く知りたい人は本書を手に取ってみてください。
ドーナツ経済とは何か

地球が持続可能で、かつ多くの人類が貧困に陥らない円環モデル
ドーナツ経済は、今までの右肩上がり、右肩下がり、のようなグラフで示される今までのモデルではないです。
具体的には表紙に書かれたような絵や、次のような絵で表されるモデルです。

内側は、「危険は窮乏」。つまり人間が幸せに暮らせる社会的な土台(衣食住)がある状態を保てるライン。
外側は、「危険な地球環境の悪化」。それ以上負担をかけると地球環境が維持できなくなる限界線。
それらの2つの間にある状態が人類全員にとって、安全で構成な範囲ということです。
これからの経済の目標は成長を続けること、ではなく、
「この範囲の中に、存在し続けられる状態」が目標だとしたら、どんな経済学の考え方が適切か、を考えたのが本書で述べあられていることです。
ドーナツ経済学を維持するための新しい経済モデル(経済の考え方)

ドーナツ型のモデルに求められる、新しい経済学の考え方、それが上図の7つです。
①目標を変える GDP → ドーナツ
②全体を見る 自己完結した市場 → 組み込み型社会
③人間性を育む 合理的経済人 → 社会的適応人
④システムに精通する 機械的均衡 → ダイナミックな複雑さ
⑤分配を設計する ふたたび成長率は上向く → 設計による分配
⑥環境再生を創造する 成長でふたたびきれいになる → 設計による環境再生
⑦成長にこだわらない 成長依存 → 成長にこだわらない
①目標を変える

今までの経済学は国内総生産(GDP)の前身を指標とされ、
その中で所得や富の不平等、環境破壊もやむなしとされてきました。
ドーナツ図で示された範囲で、バランスの取れた繁栄を探るべきと述べます。
GNPという考え方が注目され、GDPの成長だけが幸せに結びつくものではない、とされています。
何のために、誰のために成長するのか。今までになかった視点が求められます。
21世紀の新しいコンパス
では、新しい価値観では何を目指すのか、その目標となるコンパスは下図に示されます。

成長を無限に目指すと、今叫ばれている環境問題がさらに顕在化します。
成長を止めると、貧困な地域の最低限の生活(衣食住)が保てません。
その間の、ドーナツの部分、環境的に安全で、社会的に公正な範囲での経済活動が必要です。
これらは国連で2015年に可決された「持続可能な開発目標」で既に合意されています。
(SDGs)

この目標を各国が意識しながら進めていき、GDPに変わる新たな目標・指標を立案しなくてはいけません。
②全体を見る
今までの経済学は狭い視野で捉えられてきたため、多くのことを無視しています。
自然エネルギーから、それぞれの家庭に至るまで、新しい視点で議論されるべきです。

上図は今までマクロ経済全体を表すと言われていたモデルです。
ただこちらの図には、経済全体を支えるエネルギーや、資源については書かれていません。
当初この図は所得の流れを示した図でありますが、経済全体を表すフロー図として扱われており、その結果、経済が持続、発展するのに必要なエネルギー、資源という視点が抜け落ちてしまいました。

こちらは著者が提唱する新たなフロー図です。
まず、太陽からエネルギーを得る、地球。その中に社会があり、経済がある。
経済を構成する4つの要素として家計、国家、コモンズ(共有物)、市場があり、
それをさえるものとして貨幣があります。
家計の中での家事には112万ドル(約12,00万円)の価値があるというデータも出ており、
今まで無視されてきた中核経済(無給)とされ不平等に扱われてきたものを無視せず組み込んでいます。
③人間性を育む
最近は行動経済学という考え方をよく目にする。
今までは合理的経済人として人々の行動をモデル化してきたが、実際に経済を共有する人間は、社会的で、お互いに相互依存して行動している。ドーナツ型の安全・公正なモデルに適応するためには、人間性をも育む必要があります。
行動経済学のモデルとなっている、行動心理学の実験は、2003年から2007年の間に、「集めやすい」WEIRD(ウィアド)の学生の行動をもとにされています。
WEIRDとは、Western/Educated/Industrialised/Rich/Democraticの頭文字で、「西洋の、教育が普及し、工業化が進み、豊かで、民主的な」社会から選出されています。
「合理的経済人」は、現在実際に生きている人には似ていないことが問題視され、
「行動経済人」は、多様な人間のイメージとは少し遠いです。
暫定的なモデルとしては、行動経済人に、社会的なつながり、相互依存、おおまかさ(緻密な計算をしない)、依存的という要素を加えて、新しいモデルを構築すべきとしています。
④システムに精通する
「神の見えざる手」などに代表される経済は、システマチックに見られてきた。
今後は、経済は思いのままに操作できるものではなく、絶えず変わり続ける複雑なシステムとして管理すべきと述べる。
経済の仕組みとしては、需要供給曲線が最も有名です。

しかし実際の経済はさまざまなことが複雑に絡み合っており、単純なこのモデルでは説明しきれない。
経済は絶えず変化し続けるので「機械脳」的な発想ではなく、変化する経済に柔軟に対応する「農園脳」を用い、殉難に対応すべきと述べています。
⑤分配を設計する
経済成長をする中で不平等の発生は避けられないが、成長が完了すると、富の再分配が発生するというのが現在の考え方が、すでに失敗していると言える。所得の再分配だけでなく、富の再分配と、お金を生み出す力の再分配をする仕組みの検討が必要です。
1890年代にイタリアのヴィウフレド・パレードという人物が有名な「パレート図」を提唱した。
西欧諸国のデータを収集したところ、
国民所得の80%が人口20%の人々の手に渡り、
国民所得の20%が人口の80%にわたっている ことがわかった。
1995年の会議で、税引前所得の不平等は1920年から縮小を続けており、経済が成長すると最終的には収入の不平等は解消してくと結論つけられた。
しかしこれはのちに否定され、データに現れない農村部のデータは考慮されず、全国民に当てはまるものではなかった。
不平等がなぜだめか
不平等がなぜいけないか、についても述べられている。
不平等だとその効果で、経済成長がにぶる。
多くの人が生活するのに必死であれば、学ぶ機会に恵まれず、必死に働かなくてはいけない。
結果人々の能力が活かされない。また必需品を変えなければその市場も弱まり、市場が停滞する。
不平等な社会ほど、経済成長は遅く、脆弱だ。経済成長に重点を置き、不平等の問題は成り行きにまかせていいと考えるのは間違っている
p.199 ジョナサン・オストリー
オープンソースによる知識の再分配をして、地域社会のイノベーションを進めること
ベーシックインカムによって国民が力を発揮できる環境を作り上げること、
政府ODAによる国家間の支援など、持続可能な開発をするための再分配の仕組みの実行が求められている。
⑥環境再生を創造する
経済成長をすると、環境破壊が同時に発生する。裕福な社会は環境に配慮した「きれい」な状態が提供されるが、成長途上の国に「きれい」な環境は用意されない。そのような良い環境は先進国だけではなく、発展途上国にも(経済の成長レベルが低くても)供給されるべきです。

1990年代初頭に提唱されたこのグズネッツ曲線は、GDPが上昇するにつき汚染は増加するが、やがて減少していくことが提唱する。しかしこの汚染が減少する所得は、今の価値で言うと17,000ドル(約200万円)の年収を全世界の人が得ることができるようになったら、改善されるというデータが出た。
最近では各国の資源の採掘量を示すマテリアルフットプリントを計算に入れると、そのストーリーは成立せず、英国の生活水準を世界中が享受しようと経済成長を続けると、最低でも地球3個分の資源が必要、というデータがでた。
資源活用の再利用、回復を行いながら、各企業は経済成長を行う必要がある。

上図は太陽などの自然エネルギーを使って、有用な商品やサービスに変えていく循環型経済のモデルです。
「取り、作り、使い、失う」という今までのモデルも使いながら、「始まりから終わりへ」という循環型のモデルに姿を変えています。
⑦成長にこだわらない
永遠に続くGDPの成長は今までの各国の前提であった。いつまでこの成長率が続くか、鈍化するか、加速するか。
自然界には永久に成長し続けるものはない。成長依存を克服し、成長しなくても繁栄をもたらすような経済モデルを模索し、「着地」を見据えた活動が必要です。

デカップリングとは経済成長を行いつつも、資源(エネルギー)消費を減らしていく考え方です。
今まで述べられている再循環社会への移行に仕組みや企業が対応していく必要があります。
「絶対的なデカップリング」以外は、地球環境の許容限界を超えています。
本書は、そろそろ成長をもとめるのはやめて「着陸」を考える時に来ているのでは?といいます。
終わりに
今日は
【感想・レビュー】ドーナツ経済学が世界を救う
というテーマで書きました。
少し発散してしまったと思います。
少し難解でとっつきにくく見えますが、難しい用語は使っていないので、ある程度読めます。
専門的であることに変わりはないので全部読もうとせずかいつまんで読んでみてもいいかもしれません。
その際に全体像を把握するために当記事を読んでいただけると幸いです。
では、またー。しゅたっ!
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